この主たる理由は、小規模な事業者は経営環境の厳しいところで操業しており、コスト構造改善の圧力が強いことに求められよう。
また、大規模な航空会社が規制下にあって保護を受けていたり、あるいは規制下にあった時代に確立されたコスト構造をひきずっていたりする場合は、規模の問題というより、規制によって競争が抑制され、生産性が落ちる点に理由が帰される。
しかし、いずれにせよ、規模の経済性の存在が不確かであり、かつ、需給調整規制(免許制度)による競争の抑制が事業者の経営改善意欲を減退させ、非効率を発生させてしまうことは、規制緩和政策の成果が物語っているところである。
例えば、米国の場合、幹線を運航する大手航空会社U社の単位当たりコストは、小規模なローカルーエアラインである。
したがって、規模の経済性を根拠とする規制理由は、その妥当性をほぼ失ったと結論してもよい。
交通・公益事業分野において需給調整規制による既得権擁護が伝統的に認められてきた最も大きな理由は、所得再分配を目的とした社会的内部補助を実行する見返りとしての役割だろう。
内部補助とは、一つの企業の中で、採算部門が不採算部門を補助することをいう。
規制下にない通常の企業でも、新製品の開発段階や、会計的には赤字部門でもその存在が他の部門の収入に寄与したり企業イメージを向上させる効果を持つなどの場合には内部補助が行われるが、そのような企業白身が得策と判断して行う内部補助を企業的内部補助と呼ぶこれに対して、社会的内部補助とは、企業自身は維持する理由をもたないが、社会的な観点から維持が求められる部門を採算分野の利用者の負担で強制的に維持させる場合をさす。
不採算サービスの維持を義務付けられた企業は、外部からの補助金を得られない限り、超過利潤を別の部門で確保しなければならないから、これを可能とするためには、需給調整規制によって競争を抑制する必要がある。
しかし、この内部補助は、所得再分配政策という国民または自治体住民全体で原資を負担すべき性格の政策コストを、採算部門の利用者という特定の国民・住民だけに負わせることになり、負担の不公平を招く。
また、採算路線の利用者が不採算路線の利用者より高所得であるという保証はないから、低所得者から高所得者への補助という分配上逆進的結果を生じさせる可能性が高いなど、所得再分配目的の補助の方法としては効率的ではない。
内部補助の最も大きな問題点は、内部補助を実行するための需給調整規制が生産性を低下させ、競争下に比べて路線維持のコストを押し上げてしまう点である。
逆に、内部補助をやめれば参入規制の必要がなくなり、競争刺戟回よって事業者の生産性が改善され。
(採算分野のサービス改善はもちろん)従来不採算であった分野が黒字転化したり、必要な補助金額が低下する可能性は充分にある。
実際、参入規制が緩和された英国の事例では、それまでの保護によって著しく生皮性の低下していた既得権事業者が、効率的な新規参入事業者から競争刺戟を受けて生産性を大きく改善したため、地方の路線ネットワークは競争導入によって影響を受けることなく、むしろ逆に充実したケースさえみられる。
無論、遠隔地小離島の航空路線のように、自由競争下では誰も参入しようとしない路線については、内部補助をやめて競争を導人した場合には、国や自治体が公的資金で補助をする必要がある。
公的資金による補助は企業の生産性を低下させるとの反対論があるが、競争入札の導入など補助金をめぐって競争が働く方法を工夫すれば、補助金の効率化を図ることが可能であり、社会全体の負担も減少する。
今、A路線が同一企業のB路線の利用者によって内部補助されており、A路線のコストが100万円、収入が四〇万円であるとしよう。
この場合、社会全体の負担は六〇万円である。
競争の導入によってA路線のコストが四〇万円に下がれば社会全体の負担はゼロになる。
仮にA路線をすすんで運航するものが誰もいない場合、これを入札にかけることによって、ある企業が補助金三〇万円でせり落とすとすれば、社会の負担は三〇万円となる。
この三〇万円は国あるいは自治体が負担することになり、内部補助の場合に比べて公的資金は増加するが、それは見かけ上であり、社会全体としての負担は内部補助の場合に比べて減少することに目を向ける必要がある。
最後に、もう一度「企業的内部補助」について言及しておこう。
航空輸送において企業的内部補助が発生しやすい最も大きな要因は、共通費の存在と路線間の相互依存性である。
多数の路線を持つ航空会社の場合、費用の大部分は路線間に共通の費用であるから、A路線を廃止しても節約できる費用は大きくないかもしれない。
一方、A路線から他路線に乗りついでいる旅客は、A路線が廃止されれば他路線においても他社あるいは別の交通機関を使うかもしれず、A路線の廃止はA路線固有の旅客収入額の減少以上の減少を企業にもたらすかもしれない。
したがって、各路線が共通費を均等に負担する伝統的な会計計算によればA路線は赤字と判断されても、A路線を廃止したことによって失われる収入がA路線を廃止したことによって節約される費用を上回る限り、A路線は企業にとって存続させたほうが有利である。
このように、需給調整規制を受けている航空会社が現在義務付けられている「内部補助」のうち、必ずしも総てが社会的内部補助であるとは限らない。
企業的内部補助であるならば、参入・退出規制を撤廃して競争を導入しても、その路線から企業は撤退しない。
安全の問題規制緩和の重点は需給調整規制におかれるべきだが、質的規制についても、社会の変化と需給調整規制の緩和に対応した見直しが必要である。
なぜなら、第一に、質的規制の多くは情報の不完全性・不確実性を担保するための規制であるから、航空輸送産業の成長と技術革新によって不必要となってきたものは当然見直しが必要である。
第二に、需給調整規制のもとでは、企業の独占力から消費者を守るための価格規制と質的規制が必要となるが、需給調整規制が緩和されて競争が可能となれば、そのような価格規制や質的規制は不必要となる。
競争の促進は価格の低下と質の向上を導くからである。
航空サービスの「質」を構成する要因のうち、最も重要な「安全」についても同様である。
安全でない航空会社は市場競争によって淘汰される。
しばしば、「競争が促進されると安全が脅かされる」という主張がなされることがあるが、むしろ逆であり、「競争下のほうが事故が企業に与えるダメージは大きいから、安全性に一層配慮するはず」と反論することができる。
実際、国内航空の経済的規制を撤廃した米国では、撤廃後も事故率は上昇しなかった。
こした航空会社を消費者が避ける」ということだけを意味するのではない。
安全への配慮圧力が与えられればよいのであって、実際に事故がおこるまで待つ必要はない。
航空会社と航空政策が、これまでの経験から事故によるコストが膨大なものであること、および、事故による旅客の逸走が独占下よりも大きい競争下では、事故のコストは一層大きくなることさえ認識していれば、実際に事故が発生しなくても、安全に配慮しない航空会社は淘汰される。
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